今回は、コーチングスキルとしても深く関係のある、アドラー心理学についてお伝えいたします。
アドラー心理学とは
そもそもアドラー心理学(アドラーしんりがく)、個人心理学(こじんしんりがく、英: individual psychology)とは、アルフレッド・アドラー(Alfred Adler)が創始し、後継者たちが発展させてきた心理学の体系である。
個人心理学が正式な呼び方であるが、日本ではあまり使われていません。
アドラー心理学の基本前提
アドラー心理学の理論的な枠組みは、次の4つを基本前提として受け入れていることによって成立しています。
この4つについて紹介していきます。
1.目的論(Teleology)
アドラー心理学では、個人の悩みは、過去に起因するのではなく、未来をどうしたいという目的に起因して行動を選択している、と捉える。
アドラー心理学は、認知の歪みがある人や、感情と言動に不一致がある人に対して有効であり、周囲の同調圧力が煩わしければ、いっそのこと関係性を切り、自分が本当に歩みたい人生を、主体性に積極的に生きていくことを推奨している。
2.個人の主体性(Creativity)
アドラー心理学では、個人を、例えば、心と身体のような諸要素の集合としてではなく、それ以上分割できない個人としてとらえる。したがって、アドラー心理学では、心と身体、意識と無意識、感情と思考などの間に矛盾や葛藤、対立を認めない。それらは、ちょうど自動車のアクセルとブレーキのようなものであって、アクセルとブレーキは互いに矛盾し合っているのではなく、自動車を安全に走行させるという目的のために協力しているのと同じように、個人という全体が、心と身体、意識と無意識、感情と思考などを使って、目的に向かっているのである。
3.社会統合論(Social Embeddedness)
人間は社会的動物であることから、人間の行動は、すべて対人関係に影響を及ぼす。
アドラー心理学では、人間が抱える問題について、全体論から人間の内部に矛盾や葛藤、対立を認めないことから、人間が抱える問題は、すべて対人関係上の問題であると考える。
人間は人間社会において生存しているものであって、その意味で社会に組み込まれた社会的存在なのである。
社会的存在であるので、対人関係から葛藤や苦悩に立ち向かうことになるが、個人の中では分裂はしていなくて一体性のある人格として行動している。
すべての行動には対人関係上の目的が存在している。
社会に統合するというよりも、最初から社会的存在なのである。
4.仮想論(Fictionalism)
アドラー心理学では、全体としての個人は、相対的マイナスから相対的プラスに向かって行動する、と考える。
しかしながら、それは、あたかも相対的マイナスから相対的プラスに向かって行動しているかのようである、ということであって、実際に、相対的にマイナスの状態が存在するとか、相対的にプラスの状態が存在するとかいうことを言っているのではない。
人間は、自分があたかも相対的マイナスの状態にあるように感じているので、それを補償するために、あたかも相対的プラスの状態を目指しているかのように行動するのである。
これは哲学における認知論の問題である。
ただし、「認知」という用語の使い方については、基礎心理学(臨床治療を直接の目的としない研究)の20世紀後半以降の主流派であるところの認知心理学における「認知」とは大きく異なることに注意が必要である。
アドラー心理学は勇気づけの心理学
アドラー心理学では、人間は誰しもが目的に向かう欲求を持っているとしています。
しかし、その目的を達成する過程で、人間は様々な課題に直面することになります。
こうした課題を前に、諦めてしまったり囚われてばかりいると、自分の人生の目的を達成できず、自分本来の生き方を見失うことになってしまいます。
アドラー心理学では、人生の目的に向かう過程で直面する様々な困難に立ち向かい、乗り越えるための活力を「勇気」と呼び、そうした困難を、乗り越える活力を与える事を「勇気づけ」と言います。
そして、この「勇気づけ」をすることこそが、アドラー心理学の目的といっても過言ではなく、アドラー心理学が勇気の心理学と言われる由縁もここにあります。
アドラー心理学は「人生の嘘」を否定する
たとえば、
「結婚は二人だけの問題じゃない。両家の両親に祝福されないと」
という女性がいます。
アドラーはこのような姿勢を否定します。
なぜなら、これは自分の人生の選択を他人のせいにする姿勢だからです。
この女性は、結婚生活が失敗したら親のせいにするでしょう。
つまり、はじめから責任転嫁するつもりなのです。
アドラーはこれを「人生の嘘」と厳しく批判しています。
もしあなたが「人生は複雑で大変だ」と考えているなら、この「人生の嘘」に陥っている可能性があります。
結論から言いましょう。
あなたは自分の人生を、自分の責任だけで選択しなければいけません。
そうすればすべてがシンプルになります。
そうできず人生を複雑にしているのは、ほかならぬあなたなのだ、と認識してください。
そうはいっても、私には過去にこんなトラウマがある、だからこうするしかないんだ、そんな反論も聞きます。
自分のややこしい選択には原因がある、ということですね。
しかし、アドラーはこうした「原因論」を否定します。
トラウマは嘘なのです。
もちろん、過去の出来事が今の自分に影響していることはあるでしょう。
ですが、何かの行動を過去が決定した、ということは断じてありません。
すべての行動には目的があります。
たとえば、「怒る」という感情は目的があって作り出されたもので、何かの原因によるものではありません。
猛烈に子供を叱っている母親は、その行為で子供を屈服させたいという目的があって怒っているのです。
子供が不始末をしでかしたという原因で怒っているのではありません。
その証拠に、叱っている母親が、担任の先生からの電話を受けた瞬間、急に上機嫌な声で受話器に話しかけた様子を覚えている人も多いでしょう。
つまり、母親は感情に支配されてはいなかったのです。
私の兄弟の話ですが、ある職場で、「ここは私(兄弟)がいないと回らないから」という原因を捏造(ねつぞう)し、上司と合わないことがわかっていたのに、3年間も勤めていたことがありました。
「頑張っている自分を認めてほしい」という隠された目的を持っていたのです。
その欺瞞(ぎまん)は、兄弟の体を壊して辞めるという結末を呼び込んでしまいました。
あのころ、兄弟はガマンしていたのかもしれません。
ですが、この私の兄弟の例でわかるとおり、ガマンする必要はありません。
なぜなら、そのガマンは相手に伝わらないからです。
勝手なもので、ガマンしている人に限って、やがて「こんなにガマンしてるのに、わかってもらえない」と不満に思うのです。
これは不健康ですよね、だからこそ、ガマンするぐらいだったら、思いをきちんと言ったほうがいいです。
怖い上司にひどいことを言われた、でも言い返せない、ガマンしよう。
しかしながら、そのガマンは上司に伝わりません、上司は相変わらずひどいことを言うでしょう。
アドラーの教え 「今、ここ」を生きよう!
あなたの人生に対して、他人に責任を負わせてはいけません。
同様に、過去の自分も他人です。
「あのとき決めたから」というのも、過去の自分に責任を負わせて逃げる、「人生の嘘」です。
過去は現在を縛るものではないのです。
同様に、未来で現在を縛るのもいけません。
「いつか本気を出す」と、決断を先のばしにする人がいます。
この人は「決断したくない」という目的を隠しているのです。
決断したくないのなら、誰かが指示してくれるのを待つしかありません。
だけど、人に決められた人生を送って、何が面白いのでしょうか。
もし選択を迫られたら、より後悔しそうな選択肢を選んだほうがいい。
だって、どっちにしたって後悔するに決まっているんですから。
でも、何もしないで後悔するのは「人生の嘘」に陥ることです。
そうではなく、後悔するような選択肢を、自分で引き受ける覚悟を持つのです。
後になって間違いに気づいたら、進路変更すればいいだけの話です。
大事なのは、責任転嫁しないということです。
つまり、あなたも私も「今、ここ」を真剣に、全力で生きるべきなのです。
過去に何があっても、「今、ここ」には関係ありません。
未来に上司が怒るかもしれないなんてことも、「今、ここ」で考えるべき課題ではありません。
隠された目的を直視して、「人生の嘘」を振り払い、勇気を持って責任を引き受け、ヨコの人間関係において周囲に働きかける。
そうすれば、あなたも世界も、すべてがシンプルになる。
アドラーは私たちにそう教えているのです。
まとめ
今回は、アドラー心理学の基本前提といくつかの例についてお伝えしました。
アドラー心理学は、まだまだ説明しきれないくらい奥が深いです。
少しだけですが「アドラー心理学」の名著である『嫌われる勇気』について簡単にお伝えします。
この本は「哲人と青年」の対話形式の物語を読み進めていくことで「アドラー心理学」について理解を深めていく内容になっています。
またアドラー心理学の別の部分については、また違う機会に紹介していきたいと思います。
今回、アドラー心理学に少しでも興味を持っていただけましたら、ぜひ本書を実際に手にとっていただけたらと思います。
わーさんです。
最後まで、読んでいただきありがとうございます。
アドラー心理学は、今回で伝えきれない部分もたくさんあるので、おいおいお伝えできたらと思います。
引き続きよろしくお願いいたします。